top of page
欠けたる君へ


──この世界の人々は
欠けて産まれる
それは、腕か足か
はたまた体の中身かもれしない
彼女はそれがたまたま『心臓』だった
海に囲まれた「彼方側」と「此方側」と呼ばれる島に、
その間に建つ「社」
遥か昔、彼方側で暮らす人々の前に神が現れこう言った
「神命を探しなさい
見つけることができればその体を戻そう」
言葉の通り、神命を見つけた人々の体は欠けていなかった
そして長い年月が経ち、人は欠けた人間と欠けていない人間で
彼方側と此方側に住み別れるようになる
いつの間にか欠けた人間が産まれるのも
彼方側だけでの出来事になっていた
これは一人の少女が心臓を取り戻すまでの物語
一人の娘が「此方側」で産まれた
彼女は心臓が欠けていた
欠けて産まれる人間が居ない「此方側」で産まれた欠けた人間
人は彼女を恐れ、海の上の社に閉じ込めた
そうして彼女が成人を迎える年
さらに遠くへ追い出してしまおうと
「神命」を見つける名目で、彼女を彼方側へと送り出す
bottom of page